退職者による情報持ち出しリスクとその対策

退職者による情報持ち出しリスクとその対策
2025.12.15

会社にとって、従業員の退職は避けられないことです。しかし最近、退職する社員が会社の重要な情報を勝手に持ち出すという問題が増えています。この記事では、その実態と対策をわかりやすく解説します。

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目次

退職者による情報持ち出しの実態

退職が決まった従業員による情報持ち出しは、想像以上に頻繁に発生しています。ある調査では、退職者の約3割が何らかの形で業務データを持ち出しているという報告もあります。

よく持ち出される情報

  • お客様リスト(顧客情報)
  • 取引先の連絡先
  • 営業資料やプレゼン資料
  • 技術文書や製品開発のノウハウ

退職の数週間前から計画的に情報を収集し、個人のクラウドストレージやUSBメモリを使って少しずつデータを転送する手口が一般的です。発覚が遅れがちなことも深刻で、退職後しばらく経ってから競合他社の動きや顧客流出によって初めて気付くケースも少なくありません。

なぜ退職者は情報を持ち出すのか

「不正のトライアングル」という考え方があります。これは、3つの条件が揃うと人は不正をしてしまうという理論です。

不正のトライアングルとは

不正のトライアングルは、アメリカの犯罪学者ドナルド・クレッシーが提唱した理論で、なぜ人は不正を働くのかを説明するモデルです。三角形の各頂点に「動機」「機会」「正当化」が位置し、これら3つの要素が同時に存在するとき、人は不正行為に及ぶとされています。逆に言えば、この3つのうち1つでも取り除くことができれば、不正を防止できるということです。この理論は、企業の不正会計や横領などの分析に広く用いられてきましたが、情報セキュリティの分野でも非常に有効な視点を提供します。

動機:なぜ持ち出そうと思うのか

第一の要素である「動機」は、情報を持ち出すことで得られる利益や、持ち出さないことによる不利益への認識から生まれます。最も多いのは、転職先での優位性を確保したいという欲求です。営業職であれば顧客リストがあれば即座に成果を上げられますし、技術職であれば開発資料があれば同様の製品を短期間で作り出せます。キャリアアップのプレッシャーや、新しい環境で早く結果を出さなければという焦りが、情報持ち出しへの動機を強めます。

また、会社への不満や報復の感情も強力な動機となります。待遇への不満、正当な評価を受けられなかったという思い、突然の解雇や不本意な退職を余儀なくされた場合の怒りなどが、「これくらいは当然の権利だ」という考えにつながります。長年の貢献に対する見返りを得る権利があると感じる従業員ほど、情報を自分のものとして持ち出すことへの抵抗感が薄れていきます。

機会:どうやって持ち出せるのか

第二の要素である「機会」は、情報持ち出しが技術的に可能で、発覚のリスクが低いと認識される状況を指します。現代の職場環境は、残念ながら情報持ち出しの機会に満ちています。クラウドストレージサービス、個人用メールアカウント、USBメモリ、スマートフォンなど、データを外部に転送する手段は無数に存在します。

特に、アクセス権限の管理が甘い組織や、セキュリティ監視体制が不十分な企業では、機会が増大します。退職予定者に対しても通常と同じアクセス権限を付与し続けている、ログ監視が形骸化している、外部デバイスの使用が野放しになっているといった状況では、情報持ち出しは容易に実行できてしまいます。リモートワークの普及により、オフィス外での作業が当たり前になったことも、監視の目が届きにくくなり、機会を拡大させています。

正当化:なぜ悪いことだと思わないのか

第三の要素である「正当化」は、不正行為を自分の中で合理化するプロセスです。多くの従業員は、自分が作成した資料やメールのやり取りは「自分のもの」だと考えています。「自分が作ったのだから持っていっても問題ない」「スキルを証明するために必要だ」「次の仕事で役立つから」といった理屈で、情報持ち出しを正当化します。

また、「会社は誰も傷つけない」「顧客のためになる」「業界全体の発展に貢献する」といった大義名分を掲げることもあります。情報持ち出しが企業秘密の侵害であり、法的責任を問われる行為であるという認識が希薄なのです。周囲の同僚も同じようなことをしている、あるいは暗黙の了解として許容されているという雰囲気があれば、さらに正当化は強化されます。

トライアングルを崩す対策の重要性

不正のトライアングルの観点から見れば、情報持ち出しを防ぐには、この3つの要素のいずれかを取り除くことが効果的です。動機を減らすには、公正な評価制度や良好な労使関係の構築が必要です。機会を削減するには、技術的な対策による持ち出し経路の遮断が重要になります。そして正当化を許さないためには、情報管理の重要性についての継続的な教育と、組織文化の醸成が求められます。これらを総合的に実施することで、情報持ち出しのリスクを大幅に低減できるのです。

情報持ち出しによる企業への影響

情報持ち出しが企業に与える影響は深刻です。

情報持ち出しによる主な被害

  • 競合他社に技術やお客様情報が渡る
  • お客様が競合に取られて売上が減る
  • 個人情報保護法違反で罰金や訴訟
  • 会社の信用が落ちる

持ち出しを防ぐための技術的対策

情報持ち出しを防ぐためには、複数の層で防御を固める多層防御の考え方が重要です。ここでは、体系的な技術的対策について段階を追って解説します。

アクセス制御と権限管理

最初の防御線となるのが、アクセス制御です。従業員には「最小権限の原則」に基づき、業務上必要な情報にのみアクセスできる権限を付与します。例えば、営業部の社員が開発部門の技術文書にアクセスできる必要はありません。役職や部署、プロジェクトごとに細かく権限を設定することで、不必要な情報への接触を防ぎます。

アクセスログの記録と監視も欠かせません。誰が、いつ、どのファイルにアクセスしたかを詳細に記録し、定期的に分析することで異常な行動パターンを検出できます。深夜に大量のファイルにアクセスしている、普段触れない部署のデータを閲覧しているといった不審な動きは、情報持ち出しの前兆である可能性があります。特に退職予定者については、アクセスログを重点的にモニタリングする体制が必要です。

物理的な持ち出し経路の遮断

データを外部に持ち出す手段を物理的に制限することも効果的な対策です。まず、USBメモリや外付けハードディスクなどの外部記憶デバイスの使用を制限します。USBポートを技術的に無効化したり、許可されたデバイス以外は認識しないように設定したりすることで、手軽なデータコピーを防ぎます。業務上どうしても外部デバイスが必要な場合は、事前申請制とし、使用履歴を記録する仕組みを整えます。

印刷による情報持ち出しも見過ごせません。重要文書を大量に印刷して持ち帰るケースは意外と多いのです。印刷機能を必要最小限に制限し、印刷時にはユーザー認証を必須とすることで、誰が何を印刷したかを追跡できるようにします。機密性の高い文書については、印刷自体を禁止したり、印刷物に透かしやトレース用のコードを埋め込んだりする対策も有効です。

カメラ付きスマートフォンによる画面撮影も新たな脅威となっています。会議室や機密情報を扱うエリアでは、スマートフォンの持ち込みを制限するルールを設けるか、画面フィルターを使用して斜めからの撮影を困難にする物理的対策も検討に値します。

ネットワーク経由の持ち出し対策

現代において最も注意すべきなのが、ネットワーク経由でのデータ流出です。個人用のクラウドストレージサービスへのアップロードを防ぐため、業務端末から個人用アカウントへのアクセスをブロックします。Dropbox、Google Drive、OneDriveなどの個人アカウントへの接続を制限し、会社が管理する法人アカウントのみ使用可能とすることで、データの行方を把握できます。

メールによる情報流出も深刻な問題です。企業ドメイン以外のメールアドレスへの大容量ファイル送信を制限したり、添付ファイルのサイズに上限を設けたりすることで、大量データの持ち出しを防ぎます。さらに進んだ対策としては、メールの内容を自動的にスキャンし、機密情報が含まれていないかをチェックするDLP(Data Loss Prevention)ツールの導入も効果的です。特定のキーワードや個人情報のパターンを検出すると、送信を自動的にブロックしたり管理者に通知したりする機能を持っています。

Webメールサービスやファイル転送サービスの利用にも注意が必要です。GmailやYahoo!メールなどのWebメールへの大容量ファイル添付、ファイル転送サービスへのアップロードを監視し、必要に応じて制限します。プロキシサーバーを経由させることで、すべてのWeb通信を記録し、不審なアクティビティを検出する体制を構築できます。

IT資産管理ソフトウェアの活用

これらの対策を統合的に管理するツールとして、IT資産管理ソフトウェアの活用が広まっています。これらのソリューションは、端末上のあらゆるファイル操作を監視し、コピー、移動、削除、外部への送信といった行動を記録します。大量のデータが一度にコピーされた、重要なファイルが外部デバイスに転送されたといった異常を検知すると、リアルタイムで管理者に通知する機能を備えています。

また、退職予定者や異動予定者のアカウントを特別な監視対象として登録し、通常よりも厳格なモニタリングを行うことも可能です。退職日が近づくにつれて段階的にアクセス権限を制限し、最終的には必要最小限の情報のみ閲覧可能な状態にする自動化も実現できます。

エンドポイントセキュリティの強化

個々の端末レベルでのセキュリティ対策も重要です。アンチウイルスソフトやEDR(Endpoint Detection and Response)ツールを導入することで、不正なプログラムの実行を防ぎ、マルウェアを使った外部へのデータ送信を検出・ブロックできます。また、ハードディスク全体の暗号化により、端末が盗まれても正規の認証なしにはデータを読み取れなくします。重要ファイルには個別に暗号化を施し、退職時には暗号化キーへのアクセス権を即座に無効化することが不可欠です。

リモートワーク環境への対応

リモートワークが普及した現在、オフィス外からのアクセスへの対策も必要です。VPN接続を必須とし、社内ネットワークを経由しない直接的なクラウドアクセスを制限します。仮想デスクトップインフラ(VDI)を導入すれば、ローカル端末にデータを保存させず、すべての作業をサーバー側で行うことで物理的なデータ持ち出しを根本から防げます。私物端末を業務に使用している場合は、MDM(Mobile Device Management)ツールで業務用データとプライベートデータを分離し、退職時には業務用データのみをリモートで削除できる機能が重要です。

組織的な対策の重要性

技術的な対策だけでは不十分です。組織全体で情報セキュリティの意識を高めることが求められます。まず、入社時から情報管理の重要性について教育を行い、定期的に研修を実施することで、従業員の意識を醸成します。特に、退職時には守秘義務が継続することを明確に伝え、情報持ち出しの法的リスクについても説明する必要があります。

退職プロセスの見直しも重要です。退職の申し出があった時点で、アクセス権限を段階的に制限し、重要な情報へのアクセスを遮断します。退職日までの期間は、業務の引き継ぎに必要な情報のみにアクセスできるようにし、それ以外のデータへのアクセスは速やかに無効化します。また、退職面談の際には、会社の資産を返却することを確認し、誓約書にサインをもらうことも有効です。

従業員との良好な関係を維持することも、実は重要な対策の一つです。会社に対する不満や恨みが情報持ち出しの動機になることを考えれば、普段から公正な評価制度を整備し、働きやすい環境を作ることが予防につながります。退職者とも円満な関係を保ち、卒業生として良好なネットワークを構築することで、悪意のある行動を抑止できる可能性があります。

万が一の場合の対応

どれだけ対策を講じても、情報持ち出しを完全に防ぐことは困難です。そのため、万が一の事態に備えた対応策も準備しておく必要があります。情報漏洩が疑われる場合には、速やかに調査を開始し、被害の範囲を特定します。アクセスログやメールの送受信記録、デバイスの使用履歴などを分析し、証拠を確保します。

法的措置を検討する際には、弁護士や専門家に相談することが重要です。秘密保持契約や競業避止義務の違反があれば、損害賠償請求や差し止め請求を行うことができます。ただし、訴訟には時間とコストがかかるため、費用対効果を慎重に検討する必要があります。場合によっては、示談交渉によって早期解決を図ることも選択肢の一つです。 また、情報漏洩の事実が確認された場合には、影響を受ける可能性のある顧客や取引先に速やかに通知することも必要です。透明性のある対応を取ることで、信頼回復につなげることができます。同時に、再発防止策を策定し、同様の事態が起こらないよう組織全体で取り組む姿勢を示すことが求められます。

これからの時代に求められる対策

働き方の多様化やリモートワークの普及により、情報管理の難易度は高まり続けています。物理的なオフィスでの管理だけでは不十分であり、ゼロトラストセキュリティの考え方、つまり社内外を問わず全てのアクセスを検証する仕組みが必要です。AIや機械学習を活用した異常検知システムも普及しつつあり、従業員の通常行動パターンから逸脱した動きを自動的に検出できるようになっています。

同時に、データそのものの保護も重要です。暗号化技術により持ち出されても内容を読み取れないようにする対策や、電子透かし技術で流出元を特定できる仕組みなど、多層的な防御が求められます。情報を完全に持ち出せないようにするのではなく、持ち出されても被害を最小限に抑えるという発想の転換も必要になっています。

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まとめ

退職者による情報持ち出しは、企業にとって深刻な脅威です。しかし、適切な対策を講じることで、そのリスクを大幅に低減することができます。技術的な対策と組織的な対策を組み合わせ、従業員の意識向上と良好な労使関係の構築に努めることが、最も効果的な予防策となります。

情報セキュリティは、一度対策を実施すれば終わりというものではありません。脅威は常に進化し、新たな手口が次々と現れます。定期的に対策を見直し、最新の技術動向や法規制の変化に対応していくことが求められます。また、セキュリティと業務効率のバランスを取りながら、持続可能な仕組みを構築することも重要です。

最後に忘れてはならないのは、情報セキュリティは全従業員の責任であるということです。経営層から現場の従業員まで、一人ひとりが当事者意識を持ち、日々の業務の中でセキュリティを意識することが、強固な防御体制を築く基盤となります。退職者による情報持ち出しという問題に真摯に向き合い、組織全体で取り組むことで、企業の貴重な資産を守っていきましょう。

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