人的セキュリティ対策の全体像|従業員起因のリスクを最小化する実践ガイド

人的セキュリティ対策の全体像|従業員起因のリスクを最小化する対策

人的セキュリティ対策の全体像|従業員起因のリスクを最小化する対策
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デジタル化が加速する現代において、企業が直面する情報セキュリティリスクは増大の一途をたどっています。特に注目すべきは、高度なサイバー攻撃よりも、従業員の誤操作や判断ミスに起因するインシデントが大半を占めているという事実です。
本記事では、人的要因から生じる情報リスクの実態を明らかにし、実践的な対策手法を具体例とともにご紹介します。

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目次

人的脅威とは何か─情報セキュリティにおける定義

人的脅威とは、組織内の人間が意図的・非意図的に引き起こすセキュリティ上の危険を指します。 技術的な防御システムがいかに堅牢であっても、人間の行動によってその防壁は容易に突破されてしまいます。
具体的には、機密情報の誤送信、フィッシング詐欺への引っかかり、アクセス権限の不適切な管理などが該当します。 悪意を持った第三者が従業員を標的とするソーシャルエンジニアリング攻撃も、この範疇に含まれます。
これらの行為は、機密データの流出を招き、企業の信用失墜や法的責任につながる可能性があります。 したがって、情報セキュリティ体制を構築する際は、システム面だけでなく人的側面への目配りが欠かせません。

データが示す現実─情報漏えいの8割は人的要因

情報セキュリティインシデントにおいて、人間が関与するリスクは想像以上に大きな比重を占めています。
IPA(独立行政法人 情報処理推進機構)が発表した「情報セキュリティ10大脅威 2024」では、前年から大きく順位を上げた項目として、4位から3位へ上昇した「内部不正による情報漏えい等の被害」、そして9位から6位へ躍進した「不注意による情報漏えい等の被害」が挙げられています。 これらはいずれも人的要因が主因となる脅威です。

順位前年
順位
内容
1位1位ランサムウェアによる被害
2位2位サプライチェーンの弱点を悪用した攻撃
3位4位内部不正による情報漏えい等の被害
4位3位標的型攻撃による機密情報の窃取
5位6位修正プログラムの公開前を狙う攻撃(ゼロデイ攻撃)
6位9位不注意による情報漏えい等の被害
7位8位脆弱性対策情報の公開に伴う悪用増加
8位7位ビジネスメール詐欺による金銭被害
9位5位テレワーク等のニューノーマルな働き方を狙った攻撃
10位10位犯罪のビジネス化(アンダーグラウンドサービス)
出典:IPA(独立行政法人 情報処理推進機構)「情報セキュリティ10大脅威 2024」

セキュリティインシデントの大多数は、システムの脆弱性ではなく、従業員の操作ミスや規定違反から発生しています。 パスワード管理の甘さ、ファイルの誤送信、社内規程を逸脱したデータの取り扱いなどが、情報漏えいの主要な原因となっているのです。
以下では、実際に発生した情報漏えいのケーススタディをご紹介します。

主な人的要因によるインシデントパターン

人的要因による情報セキュリティインシデントには、いくつかの典型的なパターンが存在します。これらを理解することで、効果的な予防策を講じることが可能です。
誤操作・誤送信: メールの宛先間違いやBCC/CCの取り違え、添付ファイルの誤添付などが該当します。特に複数の宛先への一斉送信時や、類似した名前の宛先がある場合に発生しやすい傾向があります。
設定ミス: クラウドサービスのアクセス権限設定、ファイアウォールルールの設定漏れ、データベースの公開設定ミスなどが含まれます。システムの複雑化に伴い、こうしたミスは増加傾向にあります。
紛失・置き忘れ: 機密情報が記録されたUSBメモリやノートPC、書類の紛失・置き忘れも重大なリスクです。移動中や外出先での作業時に特に注意が必要です。
ソーシャルエンジニアリング: 攻撃者が人間の心理的な隙を突いて情報を引き出す手法です。権威者を装った電話や、緊急性を訴えるメールなどにより、従業員が意図せず機密情報を開示してしまうケースがあります。

効果的な人的セキュリティ対策の実践

セキュリティポリシーとガイドラインの策定

セキュリティインシデントの多くは人的要因に起因するため、組織全体での取り組みが不可欠です。その第一歩として、セキュリティポリシーとガイドラインの策定が重要な役割を果たします。
策定プロセスでは、まず現状の業務フローを詳細に分析し、リスクアセスメントを実施します。どの業務プロセスがインシデントを引き起こしやすいかを明確化することで、対策の優先順位が見えてきます。
次に、リスク分析に基づきポリシーとガイドラインを作成します。セキュリティ上の注意点、対応手順、具体的な事例を盛り込むことで、従業員が状況に応じた適切な行動をとれるようになります。
さらに、ルールとして文書化し、企業文化に定着させるためのしくみも必要です。定期的な見直しと更新、ルール違反時のペナルティ、インシデント発生時の報告制度の整備などが考えられます。
最後に、このポリシーやガイドラインを社内に浸透させるための教育が欠かせません。定期的な研修やeラーニングを通じて全社員への周知を徹底し、ルールが形骸化しないよう実効性を持たせます。

従業員教育プログラムの設計と実施

ポリシーを社内に浸透させるには、体系的な従業員教育プログラムの実施が重要です。 人的要因による情報リスクを最小限に抑えるには、従業員がセキュリティ意識を高め、実践的な知識とスキルを身につける必要があります。
教育プログラムでは、まず基本的なセキュリティルールを理解させることが重要です。パスワード管理の適切な方法、フィッシングメールの見分け方、情報の機密性に関する基本的な知識などを含めます。
また、定期的なトレーニングやワークショップを通じて、最新のセキュリティ脅威についても情報をアップデートし続けることが必要です。実践的なシナリオを用いた訓練は、従業員が現実の状況でどのように対処すべきかを理解するのに役立ちます。
さらに、情報セキュリティポリシーを徹底するために、各社員の行動を継続的にモニタリングし、問題が発生した際に迅速にフィードバックを提供する制度を設けることも効果的です。

標的型攻撃メール訓練の導入

従業員教育の中でも特に効果的なのが、標的型攻撃メール訓練です。実際の攻撃を模擬した訓練メールを送信することで、従業員がフィッシング詐欺や標的型攻撃に対してどの程度の警戒心を持っているかを測定可能です。
訓練では、実際の攻撃メールに酷似した内容を使用し、従業員がリンクをクリックしたり、添付ファイルを開いたりするかどうかを確認します。訓練後には、開封した従業員に対して即座にフィードバックを行い、なぜそのメールが危険だったのかを具体的に説明します。
定期的に訓練を実施することで、従業員のセキュリティ意識が段階的に向上し、実際の攻撃に遭遇した際の対応力が強化されます。訓練結果を分析し、組織全体の脆弱性を把握することで、教育プログラムの改善にもつなげられます。

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内部不正を防ぐアクセス制御の実装

内部不正を防止するには、情報へのアクセス制限を適切に設定することも重要です。
アクセス制御には、システム上の権限管理が含まれ、各職務に応じた適切な権限を設定する必要があります。具体的には、業務上不要なデータや機密情報にアクセスできる権限を最小限にすることが挙げられます。このような制限により、不要な情報へのアクセスを防ぎ、不正利用のリスクを軽減します。
また、ログの監視を強化することも有効です。ログ監視は、異常なアクセスや不審な操作を早期に発見するための手段となります。特に、通常では考えられない時間帯や場所からのアクセスには注意が必要です。リアルタイムでの監視体制を整えることで、問題発生時に迅速に対応が可能になります。
さらに、物理的なアクセス制限も考慮されるべきです。データセンターやサーバールームへの入室制限を設け、認証手続きを厳格にすることは、内部不正の抑止につながります。加えて、入退出の履歴管理も実施することで、アクセスの可視化を高め、問題の発生を抑えることが可能です。

URLフィルタリングによる防御層の追加

人的セキュリティ対策をさらに強化するには、技術的な防御層を組み合わせることが効果的です。その一つがURLフィルタリングです。
URLフィルタリングは、従業員が悪意のあるウェブサイトや不適切なサイトにアクセスするのを防ぐ技術です。フィッシングサイト、マルウェア配布サイト、ランサムウェア感染の原因となるサイトなどへのアクセスを自動的にブロックすることで、従業員が誤ってクリックしてしまった場合でも被害を防げます。
特に標的型攻撃メール訓練と組み合わせることで、「訓練で学んだ知識」と「技術的な防御」の二重の防護壁を構築可能です。従業員が不審なリンクを見抜けなかった場合でも、URLフィルタリングが最後の砦として機能するのです。
導入の際は、業務に必要なサイトまでブロックしないよう、ホワイトリストの適切な設定が重要です。また、定期的にフィルタリングルールを更新し、新たな脅威に対応できるよう保守することも忘れてはなりません。

インシデント発生時の被害拡大防止策

セキュリティインシデントが発生した際に被害を最小限に抑えるには、迅速かつ体系的な対応が不可欠です。
まず、緊急連絡網の整備を行い、インシデント発生時には関係部署や責任者に速やかに報告が行き渡るようにします。
次に、事前にシミュレーション訓練を行い、実際の対応時に混乱が生じないよう備えることが重要です。
また、インシデント対応チームを組織し、事前に役割分担を明確にしておくことで、迅速な対応が可能になります。
情報の流出やシステム停止などの具体的な被害を防ぐためには、ログの監視やアクセス制御の強化を通じて、不正な挙動を早期に発見し対策を講じることが求められます。そして、後続の業務に与える影響を最小限に留めるために、代替手段やバックアップ体制の確立も怠ってはなりません。

多層防御アプローチで人的リスクをカバーする

人的セキュリティ対策を効果的に機能させるには、単一の対策に頼るのではなく、多層防御の考え方が重要です。これは、一つの防御層が突破されても、他の層で脅威を食い止めるという戦略です。
予防層: 従業員教育、セキュリティポリシーの策定、標的型攻撃メール訓練などにより、インシデント自体の発生を防ぎます。これが第一の防御線となります。
検知層: ログ監視、異常行動の検知、URLフィルタリングなどにより、脅威や不審な行動を早期に発見します。従業員が誤って危険な行動をとった場合でも、技術的なしくみが検知します。
対応層: インシデント対応チーム(CSIRT)の設置、緊急連絡網の整備、バックアップ体制の確立などにより、インシデント発生時の被害を最小化します。
改善層: インシデント後の分析、再発防止策の策定、継続的な教育プログラムの見直しなどにより、組織のセキュリティレベルを継続的に向上させます。
これらの層を適切に組み合わせることで、人的要因によるリスクを大幅に低減できるのです。

よくある質問(Q&A)

Q1: 人的セキュリティ対策で最も優先すべきことは何ですか?

A: 従業員教育の徹底です。どれほど高度な技術的対策を講じても、従業員がセキュリティリスクを理解していなければ効果は半減します。基本的なセキュリティルールの理解から始め、定期的な訓練を通じて実践的なスキルを身につけさせることが最優先事項です。

Q2: 標的型攻撃メール訓練はどのくらいの頻度で実施すべきですか?

A: 最低でも年に1回、理想的には四半期に1回の実施が推奨されます。攻撃手法は日々進化しているため、定期的な訓練によって従業員の警戒心を維持することが重要です。また、訓練結果を分析し、開封率が高い部署には追加の教育を実施するなど、柔軟な対応が求められます。

Q3: 小規模な組織でも人的セキュリティ対策は必要ですか?

A: はい、組織の規模に関わらず必要です。むしろ、小規模組織はセキュリティ専任者がいないケースが多く、一度のインシデントが経営に致命的なダメージを与える可能性が高いため、人的セキュリティ対策がより重要になります。規模に応じた現実的な対策から始めることをおすすめします。

Q4: URLフィルタリングを導入すると業務に支障が出ませんか?

A: 適切に設定すれば業務への影響は最小限に抑えられます。導入時には業務で使用する正規のサイトをホワイトリストに登録し、段階的に運用を開始することで、業務効率を維持しながらセキュリティを強化可能です。また、ブロックされたサイトへのアクセス申請プロセスを整備することで、柔軟な運用が可能です。

Q5: 内部不正を完全に防ぐことは可能ですか?

A: 完全に防ぐことは困難ですが、大幅に抑制することは可能です。アクセス制御、ログ監視、定期的な監査、従業員満足度の向上など、複数の対策を組み合わせることで、内部不正のリスクを大きく低減可能です。重要なのは、技術的対策と人的対策をバランスよく実施することです。

まとめ

人的セキュリティ対策の強化は、企業全体の情報保護において最も重要な要素です。
セキュリティインシデントの大多数は、技術的な防御を突破するのではなく、人間の注意力不足や誤った判断によって引き起こされます。このため、人的要因への対策は、情報漏えいリスクを未然に防ぐ礎となり、組織のセキュリティレベルを飛躍的に向上させることが可能です。
特に、従業員教育の徹底、標的型攻撃メール訓練の実施、URLフィルタリングの導入という三本柱を確立することで、「人」を起点とした包括的なセキュリティ体制を構築可能です。

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