プラス・セキュリティとは?組織全体でサイバー攻撃に備えるための基礎知識

プラス・セキュリティとは?組織全体でサイバー攻撃に備えるための基礎知識
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プラス・セキュリティとは

「プラス・セキュリティ」とは、ITの専門家だけでなく、営業・経理・人事などすべての従業員が、自分の業務に必要な情報セキュリティの知識や意識を身につけることを目指す考え方です。専門家を育てるのではなく、組織全体のセキュリティリテラシーを底上げすることが目的です。

デジタル化の加速とともに、サイバー攻撃の手口は年々巧妙化・多様化しています。ランサムウェア(身代金要求型マルウェア)による業務停止、フィッシング詐欺による情報漏洩、クラウドサービスの設定ミスに起因したデータ流出——こうしたインシデントは、大企業だけでなく中小企業や公共機関にも広く及んでいます。

このような背景の中で、従来の「セキュリティ専門家だけが対応する」という体制に限界が生じてきました。そこで注目を集めているのがプラス・セキュリティという考え方です。

本記事では、プラス・セキュリティの定義や背景、具体的な取り組み事例、そしてメリット・課題までを体系的に解説します。

目次

プラス・セキュリティとは何か

定義と基本的な考え方

プラス・セキュリティ(Plus Security)は、経済産業省が推進する人材育成方針の一環として提唱されたコンセプトです。2019年に経済産業省が公表した「DX(デジタルトランスフォーメーション)レポート」や、その後発表された「情報セキュリティ人材育成に関するガイドライン」の中で、この概念が体系的に位置づけられました。

具体的には、組織内のすべての従業員・職員が、自らの業務に必要な最低限の情報セキュリティ知識を習得し、日常業務の中でセキュリティを意識した行動をとれるようにすることを目的としています。

「プラス」という言葉が示すのは、「本来の専門職(営業、経理、人事など)にセキュリティの素養をプラスする」というイメージです。セキュリティの専門家を目指すのではなく、各職種の専門性を活かしながら、セキュリティ視点を業務に組み込むことが本質です。

セキュリティ専門人材との違い

プラス・セキュリティを理解するには、「セキュリティ専門人材」との対比が有効です。

区分
セキュリティ専門人材
プラス・セキュリティ人材
主な役割セキュリティ対策の設計・運用・インシデント対応 各業務領域でのセキュリティ意識の実践
必要なスキル高度な技術知識・資格業務に必要な基礎的セキュリティ知識
対象者SOC・CSIRT担当者、セキュリティエンジニア全従業員・経営層を含む非専門職
育成期間数年単位の専門教育数日〜数週間の研修・e-ラーニング

このように、プラス・セキュリティは組織全体の「セキュリティリテラシーの底上げ」を目的とした、広く浅い知識の普及に重点を置いています。

プラス・セキュリティが必要とされる背景

サイバー攻撃の対象が「人」へシフト

かつてのサイバー攻撃は、システムの技術的脆弱性を狙うものが中心でした。しかし近年では、ソーシャルエンジニアリング(人間の心理的な隙を突く攻撃手法)が増加しています。

標的型攻撃メール、偽装した添付ファイル、なりすまし電話——これらはすべて、技術的なシステムではなく「人の判断ミス」を起点としています。Verizonが毎年発表する「Data Breach Investigations Report(DBIR)」によれば、セキュリティインシデントの大部分に人的要因が関与していることが報告されています。このため、技術的なセキュリティ対策だけでは組織全体を守ることは困難になっています。

DX推進によるリスク領域の拡大

クラウドサービスの活用、テレワークの普及、SaaS(Software as a Service)ツールの導入など、DXの加速により、セキュリティリスクは従来のオフィス環境を超えて広がっています。

これまでは情報システム部門が管理するネットワーク内に情報が集中していましたが、現在は各部門の社員が直接クラウドサービスを利用し、データを扱う機会が増えています。このような環境では、業務担当者自身がセキュリティを意識して行動する能力が、組織防衛の重要な要素となります。

セキュリティ専門人材の深刻な不足

日本では情報セキュリティ人材の不足が長年にわたって課題とされています。独立行政法人情報処理推進機構(IPA)の調査においても、セキュリティ分野の人材需給ギャップが継続的に指摘されています。すべてのリスク対応をセキュリティ専門家に依存する体制は、現実的に維持困難です。

プラス・セキュリティの推進は、この課題に対する現実的な解決策の一つとして位置づけられています。

プラス・セキュリティの具体的な取り組み

セキュリティ教育・研修プログラムの整備

プラス・セキュリティの実践において、最も基本的かつ効果的な取り組みが教育・研修プログラムの整備です。

e-ラーニングの活用

時間や場所を問わず受講できるe-ラーニングは、全従業員へのセキュリティ教育に適した手段です。フィッシングメールの見分け方、パスワード管理のベストプラクティス、SNS利用のリスクといった、実務に直結するテーマが多く取り上げられています。

標的型攻撃メール訓練

実際の標的型攻撃を模した訓練メールを全従業員に送付し、クリック率や報告率を測定する「標的型攻撃メール訓練」は、欧米企業を中心に広く普及しており、日本でも採用する組織が増えています。訓練を通じて、従業員がメールの危険性を体感的に理解できる効果があります。
ALSOKでは「標的型攻撃メール訓練 T3 with セキュリティ教育」を提供しています。本サービスは「訓練(Training)・測定(Testing)・教育(Teaching)」の3つの要素を統合したサービスであり、訓練メールの送付にとどまらず、訓練後のフォローアップ教育までをワンストップで提供している点が特徴です。

「ALSOK 標的型攻撃メール訓練」について詳しくはこちら

訓練の結果データをもとにして、クリックしてしまった従業員や部門に対してすぐに補足学習コンテンツを届けられる仕組みは、「体験と学習をセットで提供する」というプラス・セキュリティの考え方と非常に親和性が高いといえます。また本サービスでは、最新の攻撃手口を反映した訓練シナリオの質の高さも評価されています。
「訓練だけで終わらせない」という設計思想は、教育効果の持続性という課題への実践的な解答の一つです。

部門別・役職別のカスタマイズ研修

経理部門には「ビジネスメール詐欺(BEC)」に関する研修を、人事部門には「採用詐欺・履歴書マルウェア」に関する研修を実施するなど、各部門の固有リスクに合わせた教育が効果的です。

セキュリティポリシーの浸透と文化醸成

ルールを作るだけでなく、それを日常的に実践する「セキュリティ文化」を組織内に醸成することが、プラス・セキュリティの本質です。

  • 経営層のコミットメント:トップが率先してセキュリティの重要性を発信する
  • インシデント報告の心理的安全性:ミスや異変を報告しやすい組織風土を作る
  • セキュリティ啓発イベントの開催:「情報セキュリティ月間」などを活用した社内イベント

ISMS・認証制度との連携

ISMS(情報セキュリティマネジメントシステム)の国際規格であるISO/IEC 27001では、従業員のセキュリティ教育・意識向上が要件として明記されています。プラス・セキュリティの取り組みは、このような認証取得・維持活動とも密接に連携します。

プラス・セキュリティの課題

教育効果の持続性

一度受けた研修の効果は時間とともに薄れます。セキュリティの脅威も常に変化するため、継続的・反復的な教育の仕組みを構築することが不可欠です。年1回の研修だけでは不十分であるとされています。

学習意欲・モチベーションの維持

業務多忙な中でセキュリティ研修への参加を促すことは容易ではありません。強制参加型の研修では形式的な受講にとどまりがちです。ゲーミフィケーション(ゲーム要素の導入)や、実務との関連性を明確にしたコンテンツ設計が求められます。

効果測定の難しさ

「セキュリティリテラシーが向上した」という定性的な変化を、数値で測定することは難しい側面があります。フィッシング訓練のクリック率、インシデント報告件数の推移など、定量的な指標をどのように設計するかが課題です。

部門ごとの温度差

経営層や管理職のコミットメントが低い場合、特定部門でのみ研修が形骸化するリスクがあります。組織全体での取り組みを実現するためには、トップダウンとボトムアップの両方向からのアプローチが必要です。

プラス・セキュリティを組織に根付かせるための実践ステップ

Step 1:現状把握(アセスメント)

まず、組織内の従業員のセキュリティ知識・意識の現状を把握します。アンケートやテスト、フィッシング訓練の結果などを活用し、どの部門・階層でリスクが高いかを可視化します。

Step 2:教育計画の策定

現状把握の結果をもとに、対象者・優先度・教育内容を設計します。全員に共通のベーシックプログラムと、部門別・役職別の応用プログラムを組み合わせることが効果的です。

Step 3:継続的な実施と効果測定

単発の研修で終わらせず、定期的な再教育・再訓練の仕組みを構築します。訓練の結果を定量データとして蓄積し、プログラムの改善に活かします。

Step 4:インシデント対応体制との連携

従業員が不審なメールや事象を発見した際の報告先・エスカレーション経路を明確にし、プラス・セキュリティの取り組みがインシデント対応体制と有機的につながるよう整備します。

プラス・セキュリティ推進に向けたサービス活用のヒント

プラス・セキュリティの取り組みを「自社だけで設計・運用する」ことには、ノウハウ不足や担当者リソースの観点から、一定のハードルがあります。そのため、専門ベンダーが提供するサービスをうまく活用することが、実践への最短ルートになることも少なくありません。

ALSOKの「標的型攻撃メール訓練 T3 with セキュリティ教育」は、その代表的なサービスのひとつです。本サービスは単なる訓練ツールにとどまらず、以下の3つの要素を体系的に組み合わせた設計になっています。

Training(訓練)
本物の攻撃を模した精度の高い訓練メールを送付し、実際の脅威に近い状況で従業員の反応を測定します
Testing(測定)
クリック率・開封率・報告率などのデータを可視化し、組織のリスク状況を客観的に把握できます
Teaching(教育)
訓練直後にフォローアップ教材を届けることで、「気づき→学習」の流れを途切れさせず、教育効果を最大化します

この「訓練と教育の一体化」という設計は、プラス・セキュリティが目指す「体験を通じた継続的な意識向上」と合致しています。セキュリティ専門企業としての豊富な知見に裏打ちされた訓練シナリオは、最新の攻撃トレンドに即した内容であり、実効性の高い対策として多くの企業・組織に導入されています。

「まず訓練から始めたい」「訓練の効果をきちんと測って改善につなげたい」と考えるIT担当者にとって、検討する価値のあるサービスといえるでしょう。

まとめ

プラス・セキュリティとは、情報セキュリティの知識や意識を、組織のすべての構成員が持つことを目指すコンセプトです。サイバー攻撃の主な標的が「人」へとシフトし、DXの進展によってリスク領域が拡大した現代において、セキュリティ専門家だけに頼る体制には限界があります。
この取り組みが効果を発揮するためには、以下の要素が重要です。

  • 継続性:一度の研修で終わらせず、定期的・反復的に実施する
  • 実務との関連性:抽象的な知識教育ではなく、実際の業務に即した内容を提供する
  • 経営層のコミットメント:トップが率先してセキュリティ文化を醸成する
  • 心理的安全性:報告・相談しやすい組織風土を整える

今後、AIを活用した個別最適化教育やゼロトラスト環境との融合が進む中で、プラス・セキュリティの重要性はさらに高まることが予想されます。IT担当者や経営層にとって、「セキュリティは専門家の仕事」という認識を変え、組織全体でセキュリティ文化を育てていくことが、持続可能なデジタルビジネスの基盤となるでしょう。

まずは自組織の現状把握から始め、段階的にプラス・セキュリティの実践を取り入れていくことをおすすめします。

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